2001-03-14

思い出の絵葉書 (4)

五月   大学


 大学の建物の前に行くと今でも、五階にあった父の部屋をふと見あげてしまう。地理学科の教授室。父は時々、日曜日でも講義に大学に行き、僕も連れていってくれた。父が仕事をしている間、おごそかな部屋のなかで僕は地図や地層模型や未知の国々の写真に囲まれ、本を読んだり絵を描いたりした。
 大学の建物は僕の青春時代の舞台。高校生の頃、町の一番の図書館、心安らぐ大きな樫の老木の見える読書の聖地をよく訪れた。僕たちの高校は毎年ここで卒業パーティを開き、飾りつけされた中庭では“Lux”バンドの生演奏にあわせて学生たちのダンスの波がさざめいた。天も地もすべて舞踏の渦。中庭の各階ごとにあるバルコニーには白いクロス敷きのテーブルが並び、ウェイターたちが足早に歩き廻る。父母たちは食べたり飲んだりしながら中庭を見下ろし、初恋の人と踊るドレスアップした娘や、息子たちを目で追っていた。
 大学時代、僕は毎日ここで過ごした。中庭の階上にあるバルコニーで友情を交わしたり学んだり、大学を棲み家とし時代の先端を行くファッション、トレンドを身につけた個性ある仲間たちを眺めていた。
「こんな贅沢で美しい大学あっていいものだろうか?」そんな思いが幾度となく僕のなかを巡った。
 プレハブの家並みで町中が壊されている、そんな時代にあって、大学の建物は、質の高いものの持つ安心感を僕らに与えてくれ、時を超える希望をもたらしてくれた。僕の父と母の出会いもここだった。