2001-11-30

平和のからす

思い出の絵葉書  (3)




「 なんて素敵で軽やかなマウンテンバイクな の!」 
 公園に立つ美雪はうらやましそうに眺めていた。
「ああいうの、子どものころ持ってたら、夢中になって乗っていたでしょうね」
 その青年はいつもの練習コース、坂道に向かう。木立の丘をジャン プして跳びおり、盛り土の小道を突っ走る。この難関突破がコースのハイライトだ。青年は芝草の空き地に円を描き─草を踏み分け、管理人を嘆かせることになるのだが─再び丘の上に登る。
 去年、僕は一部始終を目撃した。二人の男が小さなトラックでやって来て、青年とその友達の目の前で、そのコースでいちばん大事な丘を畑のように地ならしした。二人の青年は文句も言わず、木立の後ろに見を潜め、じっと見ていた。そして、公園の管理人たちが去ったあと、再びコースに戻った。
 今日は、十歳ぐらいの女の子たちが来ている。お兄ちゃんたちのスタートをちゃんと待ち、そのあと、自分たちの自転車で走り出した。赤と黄色の縞模様のセーターを着ている女の子の自転車には、買い物かごもついている。女の子たちも上手にジャンプしている。青年たちと言葉を交わす必要はない、何も言わなくても通じ合っている。平和。春だ。
 束の間の小休止、誰も走っていない。と、その時突然、一羽のからすが木立から飛びたち、美しいアーチを描いて羽音も立てずコース上を低空飛行した。やがて、さーっと羽をつぼめ、ふわっと枝の上に舞い降りた。