2001-03-14

思い出の絵葉書 (8)

九月   僕の方角


北に向かって立った時、僕のどっちが西で、どっちが東かな。こんな時いつも、三歳から十八歳まで住んでいたあの広場がぱっと目の前に浮かび、僕を助けてくれ
る。
 南北を軸にしたこの町では、中央通りが広場を通り抜け、子供部屋の窓が北向きだったので、方角はとてもわかりやすかった。窓から外を見ると、真ん中に銅像が見え、その像を台座から頭のほうに細くなる磁石の針と考えると、その先はペーテルフィア通りから、大森公園を指している。その右、つまり東側には僕の通った小学校の校舎、そして左、西側にはフンガーリア映画館とカルヴァン派の大学がある。二百年前デブレツェンに住んでいた偉大な詩人チョコナイの銅像は、最初から、その顔が彼が昔教鞭を取った大学のほうを向くよう造られていた。この大学はハンガリーで最も古く、最も優れた学府の一つである。チョコナイが目を向けている方向が西。文化や知識や西ヨーロッパもこの方向にある。数百年間、ハンガリー人が視線を注いできた方向だ。
 このごろ東西南北を考える時には、あの小さな広場を見るのでなく、東京の上に視線を置き、そこから想像のなかで地球を見下ろしている。眼下の左側、西の方にはヨーロッパ、そして中国、タイ、それに日本の半分も。北と南はほんの少しずれただけ。東の方にあるのは、もう太平洋だけだなあ。